Newsletter Vol.10

皆様、こんにちは!
「GCN 海外ビジネス情報」第10回目は、オーストラリアのニュースをお届けします。

オーストラリアは資源が豊富で、日本にとって石炭や鉄鉱石などの調達先として重要な国です。かつ現在の日本のエネルギー供給は70%以上が化石燃料から賄っております。

2016年に発効した気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定に基づき主要各国で2050年でのカーボンニュートラル実現に向け世界的に脱炭素化の流れが加速しており、日本は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が2021年10月に閣議決定され「再エネ最優先原則」「電源の脱炭素化」「水素、アンモニア、原子力などあらゆる選択肢の追求」を表明しています。

しかし、一方ではロシアのウクライナ侵攻により、エネルギーを巡る情勢は一変してガスの需給がひっ迫し価格が高騰する中、電力の安定供給を確保する観点から、各国とも火力発電の活用策を模索しています。
環境政策推進と経済成長の両立を図る上では、再生可能エネルギーを補完する一定の化石燃料への需要は根強く残ると考えられます。

これらの課題を踏まえて安定したエネルギー供給を維持しながら、2050年に向けて脱炭素を進めて行くため、オーストラリアとの経済関係をさらに強固なものにしようという動きが進んでいます。

現在の日本やオーストラリアの状況を踏まえ、今号では、エネルギー供給という観点から、日本とオーストラリアの関係、今後の動向を交えてみていきたいと思います。

日本のエネルギー供給について
ー日本のエネルギー供給の現状と問題点は?
日本は、化石燃料への依存度が高く、エネルギー自給率が低い、という問題を抱えています。こうした問題は、地球温暖化対策における日本の立場、国際政治や軍事問題に波及することが長らく懸念されてきました。
2019年における国民1人あたりのエネルギー消費量は、
カナダ、アメリカ、 韓国 に次いで主要国の中で4位です。

エネルギー消費量が多い日本ですが、エネルギー自給率は主要国のなかでも低く、2019年で12.1%で必要なエネルギーの大部分を海外の資源に依存している状態です。
このエネルギー国内供給構成の内訳をみると、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料依存度が2019年度で84.8%となっています。一方、温室効果ガスを排出しない太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー比率は8.8%に留まっています。
こうした現状から、日本では「 ①エネルギー自給率の低さ」、「②化石燃料依存度の高さ」、「③再生可能エネルギー普及の遅れ」という3つのエネルギー問題が存在しまています。


■日本のエネルギー自給率



引用:エネ百貨
■エネルギー国内供給構成の内訳


■日本の化石燃料輸入先(2021年)

引用:資源エネルギー庁

ー2030年迄に温室効果ガス46%減(2013年度比)、 2050年迄にカーボンニュートラルの達成を表明

火力発電は、地球温暖化の要因である温室効果ガスを排出し、温暖化防止のためには化石燃料への依存率を下げ、二酸化炭素の排出量を減らすことが重要です。
日本は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が2021年10月に閣議決定されました。エネルギー関連では「再エネ最優先原則」「電源の脱炭素化」「水素、アンモニア、原子力などあらゆる選択肢の追求」などをあげています(参考:パリ協定に基づく成長戦略 としての長期戦略|環境省)。
また、2030年までに2013年度比で二酸化炭素の排出量46%減を目指し、2050年までにカーボンニュートラル(CN)の達成を宣言しています。日本だけでなくオーストラリアを含めた世界145か国が同じくCNを表明しています。
その実現のためには、考えられるあらゆる方法を実行し、技術開発などを進めていく必要があります。
2020年度の日本の温室効果ガス排出量は11.5億トンで、少しずつですが減少してきています。このうち84%が、発電など燃料を燃やすことで発生するエネルギー起源のCO2であるため、この分野の排出を減らすことが今後の課題です。

引用:資源エネルギー庁

経済産業省、資源エネルギー庁が2022年7月に発表した「今後の火力政策について」によると社会全体としてカーボンニュートラルを実現するには、この2つのポイントが述べられていました。
―電力部門では脱炭素電源の拡大、産業・民生・運輸(非電力)部門(燃料利用・熱利用)においては、脱炭素化された電力による電化、水素化、メタネーション、合成燃料等を通じた脱炭素化を進めることが必要
―こうした取組を進める上では、国民負担を抑制するため既存設備を最大限活用するとともに、需要サイドにおけるエネルギー転換への受容性を高めるなど、段階的な取組が必要。


引用:資源エネルギー庁

また、新たなエネルギー基本計画は、
①福島第一の事故後10年の歩み(ALPS処理水の海洋放出の方針決定等)、
②2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けた対応、
③2030年度の46%削減、更に50%の高みを目指す新たな削減目標の実現に向けた対応を示す。
発表したエネルギー政策の要諦は、安全性、安定供給、経済効率性の向上、環境への適合の「S+3E」。

ー日本のエネルギー政策「S+3E」

特に2050年CN、2030年度の新たな削減目標の実現に向けた対応のポイントは、このように脱炭素に向けて検討されています。
 ー 2030年度の省エネ目標を2割深掘り。今後、省エネ法の改正も視野に、日本全体の省エネを加速。
 ー 再エネは、主力電源として、S+3Eを大前提に、再エネ最優先の原則で導入拡大。2030年度の電源構成においても、足下の導入割合から倍増する目標を設定。(地域と共生する形での適地確保、アセスなど規制の合理化、コスト低減の加速など)
 ー 水素やアンモニア発電については、2050年の本格導入に向けて社会実装を加速。新たに2030年度の電源構成の1%を賄う目標を新設。
 ー 火力発電については、 2030年に向けて非効率石炭火力のフェードアウトに着実に取り組み、水素・アンモニア混焼といった脱炭素型火力に置き換え、火力比率はできる限り引き下げ。

また、2021年に見直された「2030年度のエネルギーミックス」では、主に火力発電の再生可能エネルギーの割合が変化した。
原子力発電の割合は維持するものの、再生可能エネルギーを18%程度から約2倍程度の36〜38%に引き上げ、主力であった火力発電を76%から41%へと大きく減らす。
また、新たに発表された電源構成では「水素・アンモニア発電」も、1%を占めるように目標を設定するという。
特に、産業・業務部門のエネルギー消費効率の改善はまず取り組むべき課題として挙げられており、政府は、省エネ設備投資を行うとしている。また、2022年4月に導入されたFIP制度(※1)などの入札制度を使い、再エネの市場への統合などをはかることで、国民負担を減らしていくという。
※1 再生可能エネルギー発電事業者が、市場価格で売電するときに、一定の割増金(プレミアム価格)を上乗せできる制度。

引用:資源エネルギー庁

火力発電の供給力確保
・ 近年、再エネの導入拡大等により火力発電の稼働率が低下しており、市場環境の変化と相まって、火力発電の休廃止が進んでいる。過去5年間で合計2,000万kW近い火力発電所が廃止となっており、こうした動きは今後も続くと見込まれる。
・一方で、足下では供給力不足により電力需給のひっ迫懸念が高まっており、2022年3月には東京電力管内及び東北電力管内に電力需給ひっ迫警報が、6月末には東京電力管内に電力需給ひっ迫注意報が発令された。
・ こうした中で、火力発電所の供給力確保に向けて、昨年来、火力発電等の休廃止の事前届出制の導入や、必要な供給力確保に向けたkW公募を実施してきた。
・また、2024年度の容量市場導入も踏まえつつ、稀頻度リスク等も想定した予備電源の確保の在り方についても検討を始めたところである。
・ 加えて、当面の供給力不足に対応する観点から、現在進めている長期脱炭素電源オークション制度の検討において、2050年までに脱炭素化することを大前提に、一定期間内に限り、脱炭素化されていない電源の一部を対象とすることが議論されている。
・ これらの取組を整合的に進めつつ、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す中で、中長期的な火力発電の供給力確保に向けて、どのような方策が考えるか。


引用:資源エネルギー庁

ー自然災害に対する安全性

2020年6月に「エネルギー供給強靱化法」(正式名称:強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)が閣議決定され、電気事業法の改正がおこなわれました。この法律は、災害時の連携強化、送配電網の強靭化、災害に強い分散型システムの構築などを目的としたもので、その背景には、近年の自然災害の激甚化があります。台風・豪雨による電力・燃料供給インフラの損壊、津波による被害などは、社会生活をおびやかし、エネルギーの安定供給や安全性の確保にも大きな影響を与えています。


引用:資源エネルギー庁

参照:
三井物産株式会社「日本の3大エネルギー問題をわかりやすく解説!それぞれの対策や解決策を紹介」
経済産業省 資源エネルギー庁「2022—日本が抱えているエネルギー問題(前編)」、「今後の火力政策について
資源大国のオーストラリアの現状
■脱炭素移行期にはエネルギーの安定供給が課題
カーボンニュートラルに向けて各国が対策を進めて行く中、実際の現状を考えると新興国を含めた世界が脱炭素社会を実現するには長期間を要するとみられ、移行期にはエネルギーの安定供給を確保することが不可欠と考えられていて、特に2021年に欧州や中国などで発生した電力危機は、天候に左右されやすい再生可能エネルギーの供給能力の問題や各国政府が過度に環境対策を強化することの弊害を浮き彫りにしました。環境政策推進と経済成長の両立を図る上では、再生可能エネルギーを補完する一定の化石燃料への需要は根強く残ると考えられます。

■世界的電力危機で豪州のエネルギー輸出が拡大
豪州は鉄鉱石だけでなく、石炭、天然ガス、原油などの豊富なエネルギー資源も抱える資源国であり、今後も脱炭素移行期のエネルギー供給を支える重要な役割を担うと考えられます(図1)。足元でも、世界的な電力危機によるエネルギー需要の高まりから、液化天然ガス(LNG)や石炭の輸出額が急拡大するなど豪州のエネルギー輸出の存在感が高まっています(図2)


また、オーストラリア政府は2021年6月、石炭の産出と輸出を「2030年を優に越えても」継続する方針を示し、これに先駆け、国連の気候問題担当当局者は、化石燃料を廃止できなければ経済に「大損害を引き起こす」と警鐘を鳴らしていました。それに対して「この極めて重要な産業の未来を決めるのはオーストラリア政府であって外国の組織ではない。後者の望むように産業を止めれば、多くの雇用と数十億ドル規模の輸出が我が国の経済から失われることになる」とオーストラリア政府は主張し、安定供給を示唆していました。

■日豪経済関係 より強固に
オーストラリアのメルボルンで2023年10月に開催された日豪の経済界の代表らによる「日豪経済合同委員会会議」にて、両国のビジネスの繋がりを強化しました。

日豪経済委員会 広瀬道明 委員長
「鉱物資源・エネルギー・食料とともに、防衛・教育・観光産業やスタートアップのイノベーション、幅広い分野において日本にとって豪州はなくてはならない、そういう存在になっている」と述べ、それに対し、オーストラリア・アルバニージー首相は、「どのような状況下にあろうとも、私たちの関係は信頼と尊敬と絶大な可能性を伴ったものだ」
参照:NHK「日豪経済関係 より強固に」

■再エネやCCS 商機探る日本企業 脱炭素社会へ日豪の連携
オーストラリアは二酸化炭素の排出制限などの厳しい規制が進むなどして脱炭素の動きを加速させています。現地の日本企業は、新しいビジネス拡大の機会を見つけ出そうと動き始めています。

ー再生可能エネルギーに力を入れる日本企業 日本の資源開発会社「INPEX」
南オーストラリア州にある太陽光発電施設。広大な敷地に80万枚を超えるソーラーパネルが敷き詰められています。日本の資源開発会社「INPEX」が運営に携わり、約11万世帯分の年間消費電力に当たる275メガワットを発電しています。
この会社は天然ガスの生産の約8割をオーストラリアで行っていて、再生可能エネルギーの事業に乗り出すことで多角化を図ろうとしています。

脱炭素に本腰を入れるオーストラリア。ただ、そもそもオーストラリアは世界有数の石炭の産出国です。脱炭素にかじを切ることで経済や雇用にどのような影響があるのか、専門家に話を聞きました。
オーストラリア連邦科学産業研究機構のパトリック・ハートリー博士は、水素の専門家で、脱炭素政策にも関わっています。脱炭素社会の進展で、既存のエネルギー産業で働く労働者に新たな雇用を生み出せるといいます。
また、同氏に脱炭素に向けて日本とオーストラリアの間でどのような協力ができるかという質問に「私たちは既存の資源の貿易で長年築いてきた関係をクリーンエネルギーについても築くことができると思います。両国には、それぞれ資源や人材、資金、それに需要があるので、脱炭素実現に向け協調関係をうまく築けるでしょう」と協調関係を強調しました。
参照:NHK「再エネやCCS 商機探る日本企業 脱炭素社会へ日豪の連携」

■「水素」をオーストラリアから日本へ 脱炭素社会へ日豪の連携
脱炭素に向けて、日豪のプロジェクトが進んでいます。

【大手重工業・川崎重工】水素を運搬する運搬船の実証実験に成功
マデレン・キング資源相
「世界が脱炭素化に向かっているので、日豪が水素サプライチェーンのあらゆる部分で協力することが大切で、最も重要なのは世界中に運搬できるようにすることだ」
運搬船を製造した大手重工業 金花芳則 取締役会長
「(日本は)液化水素に関しては世界を一歩リードしている。このリードを保って世界で初めて大量の液化水素を運ぶ。そういうプロジェクトをぜひとも実現したい」

【電気事業大手・電源開発】「褐炭(かったん)」と呼ばれる低品位な石炭から、高純度の水素をつくり出すことに成功

電気事業大手 技術開発部 小谷十創 部長補佐
「水素が脱炭素のために非常に求められている中で、さまざまなチャレンジがあるので、やりがいはある」

【東京ガス】水素を使って「e-methane(イーメタン)」というガスを作り出す
大手ガス会社 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 小笠原慶さん
「大容量のイーメタンを製造するには、再生可能エネルギーの価格が安価な海外で大量につくって日本に輸入することを今計画している」

このように日系企業の進出も進んでおり、脱炭素に向けて、日豪の関係は今後も強化されていくでしょう。
カーボンニュートラル達成へCCSやCCUSを推進(オーストラリア)
石炭エネルギーの安定供給もしつつ、オーストラリアでは、温暖化を背景とした山火事や度重なる洪水の発生などにより、国民の気候変動問題への関心が高まっている。2022年に連邦政府が2050年カーボンニュートラル達成に向けた具体的な目標の大幅な前倒しを発表して以降、地場企業だけでなく、日本企業によるさまざまな脱炭素ビジネスでの現地参入や、地場企業との連携などの発表が続いている。
本稿では、脱炭素事業の1つで、その地理的条件から、日本を含むアジアにとって二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)と回収・有効利用・貯留(CCUS)の適地の1つとされるオーストラリアの動向や事業機会について紹介します。

ー2050年カーボンニュートラル達成を打ち出す連邦政府
2022年5月の総選挙で勝利した労働党は、保守連合(自由党と国民党)から9年ぶりに政権を奪取した。労働党による連邦政府は、2022年6月に国が決定する貢献(NDC)を国連に提出し、温室効果ガス(GHG)排出量を2030年までに2005年比で43%削減、2050年までにネット排出ゼロを実現するとの目標を定めました。
オーストラリアの電源構成に占める化石燃料への依存度は、主要先進国と比較すると、まだ高い。2022年(暦年)のデータでは、電源構成の67.7%が化石燃料で、全体の約7割を占めている(図参照)。

一方、再生可能エネルギーの比率も年々拡大しており、5年前の2017年は15.2%だったところ、2022年時点では32.3%(前年比13.4%増)だ。
再生可能エネルギーの中でも、特に2018年から2021年にかけて太陽光発電、風力発電が増加している。太陽光発電は対前年比の伸び率(2018年~2021年の4年平均)が37.0%増、風力発電は同16.2%増を記録した。2022年は、太陽光発電は前年比21.3%増、風力発電は10.1%増だった。対照的に、化石燃料の中でも石炭は6.1%減だった。
連邦政府は2030年までに電源構成に占める再生可能エネルギー比率を82%まで引き上げる目標を発表している。また、オーストラリア・エネルギー市場管理機関のAEMOは、国内の電力消費量80%を占める全国電力市場において、石炭火力発電は2038年までに全廃されると予測している。

ーCCSの適地多く、法整備も整うオーストラリア
世界各国では、脱炭素技術の1つとして、CO2を回収し地中に貯留するCCSやCCUS技術の導入・検討が進められている。2023年にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)でも、最終合意文書に脱炭素技術の1つとしてCCSを明記した。
オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のレポートでも、特に製造業や運輸部門など排出削減が困難な産業部門で、排出削減を達成するために2030年から2040年代にかけて商業化が必要な技術の1つとして、CCUS技術を取り上げている(2023年12月14日付ビジネス短信参照)。オーストラリアのネット排出ゼロ達成手段について研究する団体「ネットゼロオーストラリア」によると、2050年のネット排出ゼロ目標達成には、大規模にCCUS産業を推進し、年間8,000万トン~10億トンのCO2を貯留可能な用地を開発していくことが必要と試算している。

また、連邦政府(保守連合による前政権)が2020年9月に発表した「低排出技術ステートメント(The Low Emissions Technology Statement)」にも、今後優先的に投資すべき5つの低炭素技術の1つとしてCCSにも言及。技術の費用対効果を示す数値として、CO2の圧縮・輸送・貯留コストを1トン当たり20オーストラリア・ドル(約1,960円、豪ドル、1豪ドル=約98円)未満に引き下げる目標を設定している(2020年9月25日付ビジネス短信参照)。

オーストラリアは長年、ガス田の開発を進めてきた。一般的に、土壌へのCO2貯留は、枯渇したガス田にCO2を圧入することで行われる。そのため、同国では、関連インフラが既に存在している上、CCSやCCUSに適した場所が多く存在していると言える。「地球環境産業技術研究機構(RITE)」によると、特にオーストラリアは、CO2貯留に適した帯水層が多くあること、地震がないこと、天然資源に関わる地質学データが豊富なことが評価されているという。また、CCSに関連する法律も整備されている(注1)。

オーストラリアはCCSに関して、国内の炭素排出削減のみならず、液化天然ガス(LNG)輸出先として既に関係を構築している日本や韓国、アジア太平洋諸国など、地下貯留が困難な国の排出削減にも貢献できるとしており、これらの国の企業からの投資や共同プロジェクトも積極的に行っている。
主なCCS・CCUS案件の現状
オーストラリアの CCSやCCUS技術を研究する団体「CO2CRC」によると、2023年11月時点で国内では20件の地中・海洋のCCS・CCUSプロジェクトがある(注2)。地域別にみると、西オーストラリア州(8件)、北部準州(4件)、ビクトリア州(4件)、クイーンズランド州(2件)、南オーストラリア州(1件)、ニューサウスウェールズ州(1件)となっている。事業者は欧米や現地石油・ガス大手が中心だが、日本の石油・ガス大手、商社が出資するもの、州政府が実施するものなどさまざまだ。現在は多くのプロジェクトが最終投資決定前や調査段階にあり、実際の稼働は2020年代後半以降に予定されているものが多い。

国内の主なプロジェクト(表2参照、注3)のうち、唯一稼働しているのは、米国石油大手シェブロンが運営する「ゴーゴンCCSプロジェクト」だ。同案件には、大阪ガス、東京ガス、JERAも出資参画しているが、稼働開始後に設備トラブルが続き、当初想定の3分の1しかCO2が回収できていないなどの課題がある。

また、最終投資決定され、(2024年2月時点)建設中の案件としては、オーストラリア石油ガス大手サントスなどが運営する「ムーンバCCSプロジェクト」のみだ。同プロジェクトはオーストラリア連邦政府のカーボンクレジット制度「オーストラリアン・カーボンクレジット・ユニット(ACCU)」でのクレジット取得対象案件として登録され、CCSプロジェクトとして、ACCUの対象になった初めての案件だ。
一方、サントスは、海外事業として、東ティモール海域の枯渇するガス田を利用する「バユ・ウンダンCCSプロジェクト」を進めている。稼働すると世界最大級のCCSプロジェクトになる予定だ。これにより、北部準州のダーウィン北部に位置するバロッサガス田などの天然ガスプラントからの排出されるCO2の回収・貯留を行う予定で、将来的には、ダーウィン地域の産業施設、水素製造施設からのCO2回収や、韓国大手エネルギーSK E&Sと共同で韓国からCO2の受け入れも検討されている。この点、サントスのケビン・ギャラガーCEO(最高経営責任者)はプレスリリースで、「半世紀以上にわたってオーストラリアがアジア経済にとって信頼できる資源供給国だったように、オーストラリアのCCSは、炭素貯蔵やノウハウという競争優位性を生かして、アジア諸国の脱炭素化の支援を行う大きな機会があるとみている」と発表している。
その他、州政府が行うCCSプロジェクトの1つに、ビクトリア州政府によるカーボンネットプロジェクトがある。事業を主導しているのは、ビクトリア州の雇用・技術・産業・地域省で、地域産業(天然ガス処理施設、水素、肥料、バイオ燃料製造施設を含む)から排出されるCO2の貯留を計画している。州政府主導のため、地元の脱炭素分野の産業育成や雇用の創出の機会としても位置付けられている。同案件では、州政府の要請を受け依、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が概念設計(FEED)への協力を実施している。
また、川崎重工業、電源開発、岩谷産業、住友商事、日本水素エネルギーなど日系企業が多く参画する同州のブルー水素(注4)プロジェクト「水素エネルギーサプライチェーン(HESC)プロジェクト」のCO2貯留先の候補ともなっている。

日系企業、日豪CCSバリューチェーン構築を検討
日本の資源エネルギー庁が2023年3月に公表した「CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ」では、CCS長期ロードマップの具体的アクションとして、海外でのCCS事業の推進を示した。日本国内外でCCSプロジェクトの立ち上がりが不十分な現状で、あらゆる選択肢を追求、有望な海外の貯留ポテンシャルの活用も選択肢の1つとして挙げられている。
オーストラリアは、海洋環境保護を目的とした国際条約のロンドン条約・1996年議定書(以下、ロンドン議定書)の締約国で、アジア大洋州地域では数少ない締約国の1つだ。ロンドン議定書第6条2項の2009年改正に基づき、連邦政府は2023年に海底でのCCSを目的としたCO2の越境輸送を可能とする国内法を連邦政府が議会へ提出し(注6)、事業環境整備を進めている。また、CCSプロジェクトの数が最も多い西オーストラリア州では、2023年11月に州政府が関連州法の改正法案を州議会に提出している(西オーストラリア州政府プレスリリース)。
2023年に入り、日本企業がオーストラリアの研究機関と共同でCO2 の大量輸送に関する技術開発に取り組む事業や、日本の火力発電所や産業界で排出されたCO2を回収し、オーストラリアに輸送、同国内の海底や地中で貯留するという日豪間の「CCS事業バリューチェーン」構築を検討する案件が発表されている(表3参照)。これらは、気候変動対策として日本の炭素排出削減につながるだけでなく、日本企業が強みを持つCO2の分離回収技術の活用や、日本企業が実績を持つLNGの輸送船舶技術を通じた液化CO2船舶大量輸送技術の開発と活用も検討されている。このような技術と事業モデルで日本が世界に先行し、CCS・CCUSに実績のあるオーストラリア企業や研究機関などと連携すれば、日本だけでなく、周辺のアジア地域の排出削減に貢献


参照:JETRO「カーボンニュートラル達成へCCSやCCUSを推進(オーストラリア)

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2024年9月?日発行

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